Web制作業界の新たな市場「トリセツ」(2)

前回は、トリセツのWeb化がWeb制作業界にとって大きなチャンスであることを書きました。今回は、トリセツのWeb化にあたっての課題を整理してみようと思います。

■トリセツ制作固有の「プロセス」という課題

トリセツの制作には、ライターが原稿を書き、オペレーターがDTPを行えば終わる書籍や雑誌の制作とは異なる、複雑なプロセスが存在します。

たとえば、企画・開発・製造・販売・アフターサービスといった関連部門との連携や、社内のステークホルダーへのレビューがあります。グローバルに出荷する製品であれば、多言語翻訳のプロセスが入ります。しかも言語数が多いだけでなく、海外各地域向けに一部の仕様が変更されることも多いため、その差分の管理に注意しなければなりません。製品の部品にOEM製品が含まれれば、コンテンツサプライチェーンも考慮が必要です。製造物責任を担保するため、担当部門による厳密な査閲もあります。紙を成果物とするDTP/PDFデータならではのデータフローが確立されていて、それをサポートする多くのツールが作られています。企業によっては、数千万から億単位のお金を使い、サポートシステムを構築しているところも多いのです。

Web化では、DTPとは異なる制作の手法とプロセスを確立する必要があります。

■トリセツにも製造物責任がある/コンテンツの可用性という課題

前回のカラムで、IEC82079-1:2012の発行によって、トリセツは積極的にWeb化しやすくなったことを説明しました。しかし、その一方でコンテンツの可用性(閲覧の継続性の担保)という課題が残っています。トリセツも、実は製品の一部として取り扱われます。製造物責任として、トリセツは製品が使用されている間(自動車では10年以上になります)、ユーザーが必要としたときにすぐに入手できる義務があります。そのため、メーカーはこれまで、トリセツを紙に印刷・製本し、耐用年数の間倉庫に保管するという方法をとってきたのです。

Webの技術は陳腐化が速いため、10年後にコンテンツを閲覧する技術が残っている保証がしづらいのです。Web化のメリットとしてARなどの新しいテクノロジーの活用あがりますが、10年後にその技術が残っているかを考えると、安易に採用できないわけです。製本された紙や、普及したPDFにいまだ一日の長がある。Web化・電子化を推進するための、大きなテーマです。

■提供する「場」についての考慮

弊社がサポートしている企業の事例になりますが、電子カルテのソフトウェアにHTMLを表示する仕組みがあり、制作したHTMLマニュアルを各病院のサーバーに置いて、電子カルテからそこを参照し利用しています。いわば製品への組込みです。工作機械、産業機械でも、機械のディスプレイにHTMLマニュアルを組み込む例が出てきています。

一方で、外部に公開されたWebサイトで一般にWebマニュアルを公開している企業もあります。私が先日取材させていただいた自動車メーカーのWebマニュアルの例では、トリセツ専用のサイトを用意するのではなく、コーポレートサイトで公開しています。Webサイトの可用性や保守体制を考慮してのことだそうです。

マーケティングの観点から、外部公開する企業もあります。ある音楽機器メーカーでは、プロ向けミキサー製品で積極的にトリセツをWeb化しています。製品の楽しさや活用方法を見込客に知っていただき、販売につなげていくためだそうです。Webで見込み客にリーチし、顧客にしていく流れをカスタマージャーニーといい、そのプロセスのマネジメントをCustomer eXperience Management(CXM)といいます。ここまで来ると、もはやトリセツを作るという行為は、マーケティングや販売、サポートと連動したプロフィット活動の一部となってきます。使い方説明で閉じていたコンテンツは、組織をまたいだコンテンツ方針の決定、レビューも必要となります(このパートで語りたいことから外れますが、Web化はトリセツを作成する組織も変化させていく可能性がありますね)。

Webコンテンツをどういった「場」で提供するか。その可用性、永続性(10数年に公開し続ける)が、Web化ではテーマとなります。

以上、Web化の課題について紹介しました(掘り下げればもっと多くの課題がありますが)。次回は、Web化のための技術的課題について説明します。

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